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東京地方裁判所 昭和44年(行ウ)30号 判決 1969年7月08日

原告

一九六九年・北京・上海

日本工業展覧会

代表者

白根滋郎

代理人

伊達秋雄

外九名

被告

代表者

法務大臣

西郷吉之助

代理人

田中治彦

外三名

指定代理人

板井俊雄

外五名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  当事者の申立て

原告

被告は、原告に対し、金一〇〇万円およびこれに対する昭和四四年一月一四日から右完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は、被告の負担とする、との判決を求める。

被告

主文と同旨の判決を求める。

第二  原告の主張

(請求の原因)

一  本件の経緯

原告は、通商産業大臣に対し、昭和四三年一一月一三日、原告の代表者である理事長川瀬一貫名義をもつて、一九六九年北京・上海日本工業展覧会(以下「本件展覧会」という。)に出品するため、別紙目録記載の貨物一九点(以下「本件貨物」という。)を含む貨物につき、外国為替及び外国貿易管理法(以下「外為法」という。)四八条一項、輸出貿易管理令一条一項の各規定に基づいて輸出承認申請をなした。

通商産業大臣は、右申請に対し、通商産業省重工業局重工業品輸出課長土谷直敏名義をもつて、昭和四四年一月一三日付で、本件貨物につき輸出貿易管理令一条六項の規定により輸出不承認処分(以下「本件処分」という。)をなした。

二  本件処分の違法性

1 本件処分は、輸出貿易管理令一条六項によつて輸出不承認処分の要件とされている「国際収支の均衡の維持と外国貿易及び国民経済の健全な発展を図るための必要性」の解釈、適用を誤り、裁量権の限界を越えた違法な処分である。

(一) いわゆる調整委員会(Coordinat-ing committee以下「ココム」という。)の趣旨、目的とココムの申合せによる禁輸

(1) アメリカは、一九四七年三月のトルーマン宣言を契機として、第二次大戦後における米国の世界政策の基調をなす反共軍事同盟による共産圏諸国「封じ込め」政策に乗り出した。そのころ、ヨーロッパにおいては、北大西洋条約機構(NATO)が結成され、マーシャル・プランが実施された。第二次大戦後の疲幣からまだ立ち直れないでいた当時のヨーロッパ諸国にとつて、軍事同盟への参加の代償というべきアメリカからの「援助」が必要であつたのである。ところで、アメリカは、一九四九年のバンデンバーグ決議によつて、アメリカの援助はアメリカの安全保障に役立つ場合にのみ行なわれるものであるという原則を明確に打ち出し、その具体的措置として、一九四九年の相互防衛援助法、一九五一年の相互防衛援助統制法(バトル法)等を相ついて立法化した。対共産圏禁輸政策も、右の「封じ込め」政策の重要な一環として行なわれたものであるが、アメリカ自身は、一九四八年三月、「安全保障輸出管理計画」を制定し、戦略物資の対共産圏輸出統制に着手した。そして、この措置を国際的に組織化するため、各国に呼びかけて外交折衝を行ない、一九四九年一一月、パリにアメリカ、イギリス、フランス等計一二か国で構成する対共産圏輸出統制のための非公式の政策委員会(Co-nsultative Group)が設置されることになつた。ココムは、翌一九五〇年に輸出統制基準を専門的に協議するための右政策委員会の執行機関として設置されたものである。その後、日本、ギリシャおよびトルコがこれに参加し、現在の参加国数は一五か国となつたが、日本が参加したのは一九五二年八月である。以上のことから明らかなとおり、ココムはその成立の当初からアメリカによる共産圏「封じ込め」政策の手段として機能すべき、歴史的、政治的性格をもつものであり、しかも、というよりはそのことのゆえに、非公式の国際協議機関であり、その申合せは口頭によるものとさえ、申合せの内容は一切公表されないという秘密的運営が行なわれているのであり、そのために国際法上も国内法上も種々の問題を生ずることになるものである。

(2) わが憲法二二条は「職業選択の自由」、本件に即していえば貿易の自由を基本的人権として保障しており、国はこの権利について、「立法その他の国政の上で最大の尊重を必要とする」(憲法一三条)のであるが、ココムによる禁輸統制に服するとなれば、当然に右の貿易自由の原則を制約することになるのであるから、国は、ココム参加の際にこの点についても違憲のそしりを受けることのないように配慮しなければならなかつたはずである。また、ココムの申合せが不公表とされている点にも留意する必要がある。ココムの申合せによる輸出不承認の基準そのものは全く不明であり、輸出貿易管理令別表第一によつてもこれを知ることはできないのである。したがつて、共産圏向けに輸出しようとする者にとつては、輸出貿易管理令別表第一により要承認品目に該当するかどうかは解つても、はたして承認されるかどうかについては全く見当がつかない。本件の場合、約一、〇〇〇品目について承認申請を行ない、うち一九品目は「持ち戻り」条件付の承認、本件貨物は不承認、その他は承認となつたのであるが、その区別の理由は本件処分後の今日においてもなお見当がつかない状態である。いわゆる「法律による行政」の原理が強調されるのは、「議会の定立した法によつて行政権の恣意的な発動を封じることに国民の権利自由の保障と法的安定・将来の予測可能性を見出そうとする」にあるが、ココム統制に対する輸出貿易管理令運用の実態は、輸出業者からその地位の法的安定性と予測可能性を奪うものであり、「法律による行政」の原理に反すること甚しく、ひいては、憲法三一条の保障する適正手続保障の趣旨にも背反するものといわなければならない。

(3) ココムの申合せが条約としての効力がなくても、国家間の国際約束である以上、当事国において遵守さるべきものであることは、国際信義の上からも、当然のことであるが、しかし、ココムは前記のように国際法上もまた国内法上も極めて多くの問題をはらんでいるのであるから、これらの問題を解決することなしに、その遵守義務について単純に右の一般論をもつてこと足れりとするわけにはいかないのであり、政府は、ココム参加の際に、ココム参加によつて当然予想される前記のような違憲、違法の疑問を解消するために、ココム参加についての条約を締結するか、国内立法化するか、いずれかの方法をとらなければならなかつたはずである。そうすれば、いずれの方法をとるにしても、国会の承認を得なければならないのであるから、その承認によつて、前記のような違憲、違法の非難に応えることができたのである。

(二) 外為法による輸出制限の限界

外為法は、その四七条において、「貨物の輸出はこの法律の目的に合致する限り、最少限度の制限の下に、許容されるものとする。」と明言し、また、その二条において、「この法律及びこの法律に基づく命令の規定は、これらの規定による制限をその必要の減少にともない逐次緩和またに廃止する目的をもつて検討するものとする。」とつけ加えているのであるが、このような規定があるのは、同法が究極的には、国際貿易機構憲章やプレトン・ウッズ協定の指向した「自由通商」を基調とすることを示す趣旨であるといわれる。同法をこのように理解することは、同時に憲法二二条の趣旨にも合致するものと考えられる。

ところで、外為四八条一項は、特定の場合に「政令で定めるところにより、通商産業大臣の承認を受ける義務を課せられることがある。」と規定し、同条二項は、「前項の政令による制限は、国際収支の均衡の維持並びに外国貿易及び国民経済の健全な発展に必要な範囲をこえてはならない。」と規定して、政令による制限の限界を示している。ところが、これを受けた輸出貿易管理令一条六項は「通商産業大臣は、国際収支の均衡を維持し、並びに外国貿易及び国民経済の健全な発展を図るために必要があると認めるときは、第一項の承認をせず、又は同項の承認に条件を附することができる。」と規定し、根拠法たる外為法と全く同様の抽象的不確定概念を並べているにすぎない。

そこで、外為法四八条二項や輸出貿易管理令一条六項の右のような規定の仕方が前記外為法の立法趣旨と、前記「法律による行政」の原理からみてはたして許さるべきものかどうかがまず問題にされなければならない。およそ、「法律による行政」の原理は、行政に対する立法的拘束を可能なかぎり厳格にすることを要求するものである。外為法四八条二項は「外国貿易及び国民経済の健全な発展を図る」という目的を指定するだけで、その他一切を挙げて政府の判断に一任しているが、外国貿易の規制が国民経済の変動に即応するような柔軟性をもつ必要のあることは否定しないとしても、その規制が「外国貿易及び国民経済の健全な発展」を目的とすることは、全く自明なことであつて、右の目的の指定が貨物の輸出の承認制に関する行政立法に関して、委任立法を指導し規制する原則的な事項を定め、委任立法の基準を定めたものとは、到底いいがたい。ここに貿易規制に関して、政府首脳部や高級官僚の国際的政治的配慮や独占資本との連繋・取引が行政立法の背後の推進力となる余地がみとめられるのであり、このような委任立法の授権は、国民主権制に必然的な国会の優位と国会立法の原則に背反するといわななければならないのである。したがつて、仮に外為法四八条二項、輸出貿易管理令一条六項の規定自体が違憲、違法でないとしても、外為法の輸出規制に関する前記の立法趣旨に徴すれば、右法律および政令の条項は、その抽象的一般的規定の仕方にかかわらず、通商産業大臣の裁量の範囲に自ら一定の限界があることを当然に予想しているものと解すべきであるから、その限界を越えた輸出の制限は違憲、違法であつて許されないものといわなければならない。

さて、外為法の趣旨目的は、同法一条により明らかなように、「外国貿易の正常な発展」と「国際収支の均衡・通貨の安定・外貨資金の有効利用の確保」とによる「国民経済の復興・発展」を図る点にあり、したがつて同法並びに輸出貿易管理令による輸出制限は、この趣旨目的の範囲内においてのみ許されるものであることはいうまでもない。すなわち、かかる経済的目的を達成する限度内ということであつて、これと本質的に異なる、経済外的干渉ともいうべき戦略物資等の輸出制限のごときは、本法による制限の範囲を著しく逸脱したものといわねばならない。してみれば、輸出貿易管理令一条六項にいう「外国貿易及び国民経済の健全な発展を図るため必要があるとき」の意義も、右の趣旨目的の限度内において解釈すべきであることを深く銘記しておかなければならない。

輸出貿易管理令一条六項が、通商産業大臣は、外国貿易および国民経済の健全な発展を図るため必要があると認めるときは、輸出の承認をしないことができる旨を規定したのは、つぎの理由によるものと考えるべきである。すなわち、貿易事情はつねに変動し、輸出の国民経済に与える影響はその時々の日本および世界の経済事情に即応して刻々に変化し、複雑微妙なものがあるので、輸出の制限が国民経済の健全な発展上必要かどうかの判断は、専門的行政機関において、かかる内外の現実的具体的諸条件を総合的に検討して行なうことが望ましく、これを法律においてあらかじめ一定の基準を設けて一律直接的に規制することは妥当を欠くと考えられるところから、特に政令により行政庁の専門的技術的な知識と経験による裁量に一任したのである。

(三) ココム統制物資と輸出貿易管理令一条六項による輸出制限の限界

(1) このような立法の趣旨に鑑みるとき、右政令により行政機関の判断に一任された範囲は、純経済的な事情の変動にともなう輸出のわが国民経済に及ぼす影響に関するもの、つまり行政庁の専門的技術的判断にふさわしい限界内にとどまるべきものといわねばならない。これに反し、わが国の政治上、外交上の必要のため、またはわが国の防衛ないし安全を図るため、すなわち、これらの経済外的理由により、国の基本政策に関する重大なる政治的決定を行ない、この国策に即応して輸出制限をするような場合、しかもその輸出制限の方法としては、行政機関をしてその時々の現実的具体的な経済情勢を勘案しながら、あるいは輸出を承認し、あるいは輸出を承認しないというように行政機関の専門的知識経験に信頼して、その場その場の判断に一任するというのではなく、特定の仕向地に対する一定の物資の輸出については、一律全面的にこれを禁止するというようなことは、輸出貿易管理令一条六項による裁量的輸出制限とは全く異質的なものであつて、同項による行政機関の裁量権限外の輸出制限行為といわなければならない。同項はかかる輸出制限を行政機関に一任したものでないことは極めて明らかである。右のごとき禁輸物資の輸出を認めることが、たとえわが国民経済の健全な発展を阻害する結果を招くとしても、そのことによつて同項による裁量的輸出禁止の対象となりえないことはいうまでもない。

本来、ココムによる共産圏向け禁輸制度は、前記のようにアメリカを中心とする自由主義諸国がソビエト、中華人民共和国を主軸とする出産圏の戦力強化をスロー・ダウンすることを目的として発足したものである。この機構による共産圏向け輸出を禁止する物資は、共産圏の戦争潜在力に貢献するもの、すなわち、戦略物資であつて、ココムにおいて指定された輸出規制物資(ココム物資)については、参加国がこれを共産圏向けに輸出することは全面的に禁止せられており、参加国は厳格にこれを遵守すべき義務を負うものである。わが国も一九五二年ココムに参加以来、右申し合せに従つて輸出の制限を行なつているものであつて、ココム物資については、特例を除いては一般的にその共産圏向け輸出を禁止してきたところであり、また、その輸出がその時々の経済情勢に照しわが国民経済に対して及ぼす影響の如何などとは全く無関係に、ただそれがココム物資に該当するというだけの理由で輸出禁止を行なつていることも明白である。

ココム禁輸の本質が、かようにわが国をも含めた自由主義諸国の防衛上戦略上の理由に基づくものであり、単なる国民経済的見地からする輸出制限でない点からみるとき、その制限が外為法による輸出制限とは全く趣を異にするものであることは明らかである。ココム禁輸のごときは、わが国の政治・外交ことに平和・防衛に決定的影響を与える最高の基本政策に関するものであるから、わが国がココムの申合せに従つて共産圏向け輸出禁止を行なうかどうかは、当然、国会を通じて国民の意思を問い、もしこれを可とするならば法律をもつてその旨の輸出禁止を行なうべきであり、これこそまさに現代民主主義の下における法律による行政の原理の要請するところであるといわねばならない。しかるに、かかる特別立法をなすことなく、既存の輸出貿易管理令一条六項に便乗して行政庁の裁量により、ココム禁輸の実を挙げようとするがごときことの許されないことはまことに明らかである。通産官僚自身、外為法の法律的解説において対共産圏禁止のための輸出承認制のごときは、同法の目的にそわないものである旨を述べており、また、水田大蔵大臣(昭和四三年三月一五日当時)が衆議院大蔵委員会において、ココム物資の輸出規制には外為法および輸出貿易管理令以外の独立した法律が必要であることさらに同法令でこれを賄なうことは法律の解釈に便乗したことになると発言していることは、いみじくもココム禁輸と外為法および輸出貿易管理令との本質的関係を直観的にではあれ、正当に看取し、素直にこれを表明したものとして高く評価することができるものといわねばならない。

なお、輸出貿易管理令の別表第一には、経済的目的以外の目的に基づくと思われる輸出制限物資が列挙せられているが、そのために外為法および輸出貿易管理令により経済外的目的による貿易制限をも行なう趣旨でもあると誤解されるおそれがあるので、この点について以下説明を加えておきたい。

輸出貿易管理令一条一項によつて、輸出に通商産業大臣の承認を要するものとされる別表第一記載の貨物を分類すると、(イ)非鉄金属、木材、米などの国内需給物資、(ロ)繊維、軽機械などの過当競争物資、(ハ)南ローデシア向けの物資、(ニ)別表一の二〇六以下のいわゆる輸出禁制品、(ホ)ココム物資の五種類に大別される。右のうち(ニ)の輸出禁制品はこれを輸出することは原則として公序良俗に反するものであり、また、麻薬取締法その他の特別法の規定によつて輸出が禁止されているものばかりであり、(ハ)の南ローデシア向けの輸出は国際政治上の理由により、国連決議によつて輸出が禁じられているのである。右以外にも、将来、条約または国内の特別立法によつて輸出制限をうける物資や地域のあることが予想されるのであるが、これらの物資の輸出制限がいずれも、特別の目的により、独自の法的根拠によるものであることは一見して明らかである。換言すれば、輸出制限の根拠法は外為法だけではないのである。そして、外為法以外に輸出規制の根拠法がある場合にも、外為法を一般法、他の根拠法を特別法とする関係に立つ場合(たとえば国内需給物資が条約か特別立法によつて輸出制限を強化される場合など)と、外為法による規制は及ばず、他の根拠法のみが輸出制限の根拠法たる場合とがある。後者の典型的な例が南ローデシア向けの輸出制限であろう。この場合の輸出制限は、専ら政治的外交的理由によるもので、外為法および輸出貿易管理令にいう「外国貿易及び国民経済の健全な発展」とは全く関係がない。

ところで、輸出貿易管理令別表第一が南ローデシア向け物資をも「要承認品目」とし、同令一条六項が、右のような場合もなお、通商産業大臣が「外国貿易及び国民経済の健全な発展」に必要かどうかの見地から、その裁量によつて承認すべきかどうかを決定するかのような規定の仕方をしているのをどのように解すべきであろうか。ここで、外為法の「管理法」としての性格を一考する必要がある。外為法は、その名のとおり「管理法」であり、その内容には、輸出承認基準のように実体法的規定だけではなく、貿易管理を通商産業大臣等の所管とする旨の組織的規定や各種の手続法的規定を包含しているのである。そして、輸出貿易管理令別表第一に南ローデシア向け物資を掲げ、同令一条六項によつて、これを不承認とするように規定されているのは、外為法の組織法的手続法的性格によるのである。具体的にいうと、南ローデシア向け物資を輸出不承認を承知の上で輸出申請する業者があるとすれば(国連決議の違法を理由に提訴するような場合)、その業者は輸出貿易管理令一条一項により輸出申請を行なうこととなるが、これに対しては、通商産業大臣がその申請を却下することになるのである。そして、その場合の却下理由は輸出貿易管理令一条六項によるのではなく、国連決議によるのであり、そのばあい同条同項の「外国貿易及び国民経済の健全な発展……」という実体法的規定は働かず、したがつて、通商産業大臣の裁量権の行使される余地は全くないのである。

(2) 本件処分は、形式的には輸出貿易管理令一条六項に規定された裁量権の範囲内において行われているのであるが、実質的には、ココムに参加している一五か国の秘密申合せを遵守せんとする、国際政治的、外交的目的に基づく裁量処分であつて、輸出貿易管理令および授権法たる外為法によつて許された経済的目的からの輸出制限の原理に背反するものというべく、裁量権の濫用として違法である。

行政処分は、常にある特定の国家目的を実現するためになされる。この処分の目的は、処分の根拠法令に明示されている場合が多く、本件についてこれをみれば、前述したところから、明らかなように、外為法の掲げる経済的目的がこれに当たるのである。しかして、行政処分がこれらの目的に反して行われた場合には、たとえその処分が形式上は裁量権の範囲内においてなされたとしても、裁量権の濫用であつて、違法といわなければならない。けだし、裁量処分が他の目的に利用されることは、法令によつて与えられた裁量のわくを無視し、それを越えるものであるからである。たとえば、風俗営業の許可は都道府県公安委員会の権限であるが(風俗営業取締法二条)、許可にあたつては、公安委員会は警察法の定める目的(一、二条)によつて拘束されるから、公衆衛生上の必要を理由に許可を拒むことは、裁量権の濫用となる。同様に、公衆浴場法(二条)による営業の許可は都道府県知事の権限であるが、犯罪予防を理由として許可を拒むことは違法である。

かような見地から、外為法および輸出貿易管理令による輸出の規制の性質、目的を考えると、既述のように、それが経済的目的に基づくものであることは明白である。したがつて、経済外的目的のために通商産業大臣が裁量権を行使することは、外為法の輸出自由の原則(四七条)、承認の限界(四八条二項)に違反し、裁量権の濫用として違法といわなければならない。

三  被告の責任

1 通商産業大臣が被告国の公権力の行使にあたる公務員であることはいうまでもなく、その故意または過失による前記違法な本件処分により、原告は後記のごとき損害を被つたものであるから、被告国は、原告に対し、国家賠償法一条一項の規定により原告にその被つた損害を賠償すべき義務がある。

(一) 日本国際貿易促進協会(以下単に「国貿促」という。)は、昭和二九年九月、中国その他社会主義諸国との貿易の促進を図るため、貿易上の諸障害を除去し、友好増進の基礎の上に、互恵平等の原則をもつて国際貿易の促進を図ることを目的として設立された団体で、右目的に賛同する商社等の団体ならびに個人をもつてその会員とし、その主要な事業の一つとして、社会主義諸国との間の商品見本市の開催ならびにこれに関する協力を行なつてきたものである。中国との間でも、昭和三〇年の東京・大阪中国商品展覧会を第一回とし、日本および中国の各地で現在までに合計八回の商品見本市が開催され、第九回目として昭和四四年三月二二日から同年六月四日までの間に、本件展覧会の開催が予定されていた。本件展覧会は、北京において、昭和四二年二月二七日、国貿促と中国国際貿易促進委員会との間で調印された「日中両国人民の友好貿易促進に関する議定書」附属協定によりその開催が決定され、昭和四三年三月一九日、北京における両者代表会談において作成された「一九六九年に日本が北京と上海で開催する工業展覧会にかんする合意書」によつて、展覧会開催期間および場所を昭和四四年三月二二日から同年四月一一日まで北京、同年五月一五日から同年六月四日まで上海とすること、展示品については、展示効果を一層高めるため量より質に重点をおく原則に基づき、現在の日本の工業技術水準を反映しうる代表的な製品を展示すべきであることなどが確認された。そこで、国貿促は、ただちに本件展覧会開催の準備活動に入り、主催団体を、国貿促のほか国貿促関西本部、同石川県支局、同京都支局、同神戸支局、同東海総局、西日本国際貿易促進会、日中輸出入組合の八団体と決め、昭和四三年六月、右主催団体の決議により本件展覧会の実施機関として、原告が設立されるにいたつたもので、原告は、本件展覧会と同名称の団体であり、規約によつて定められた決議機関、執行機関、代表機関によつて運営されるいわゆる権利能力なき社団である。

(二) 原告は、その設立以来、本件展覧会に出品、展示する製品につき、受入れ側である中国国際貿易促進委員会と協議を重ねた末、昭和四三年一一月初旬に本件貨物を含む約一、〇〇〇品目の展示品を決定し、そのリストを中国側に交付した。中国においては、電子工業関係の製品に対する需要がとみに高まつているところから、本件貨物の大半を占める電子工業関係の製品は、特に本件展覧会における展示品中の花形として、中国国内の需要家の注目の的となつていたのである。しかるに、前記のとおり違法な本件処分により、昭和四四年三月二二日から同年四月一一日まで北京において開催された展覧会には、前評判の高かつた本件貨物を期待に反して展示することができなくなつたのみならず、中国側を痛く失望、憤激させた結果、同年五月一五日から同年六月四日まで開催する手筈になつていた上海における本件展覧会は、中国側の意向により遂に中止せざるを得なくなつた。かくて、原告の中国並びに一、〇〇〇点にも及ぶ展示品の各出品者、各製造者に対する社会的信用は著しく失墜し、原告の名誉は甚だしく毀損されるにいたつた。この原告の被つた無形の損害はこれを金銭に評価すると、結果の重大性に鑑みるとき、少なくとも金一〇〇万円をくだらない。

2 よつて、被告に対し、前記損害金一〇〇万円およびこれに対する通商産業大臣の前記違法処分のなされた日の翌日である昭和四四年一月一四日から右完済にいたるまで、年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(被告の主張に対する原告の反論)

一  被告は、本件貨物の輸出を承認するとココム参加各国から実力的、道義的等々の制裁をもつて報復を受けることとなる、実力的報復としていわゆる経済的圧力を加えられることが予想されるがその結果、種々の困難な事態が発生するから、本件処分は極めて合理的な判断に基づくものであると主張するが、ココム参加国が、本件貨物の輸出承認を理由に、なんらかの報復措置をとるなどということは到底考えられず、まして、現在の国際的国内的経済事情の下においては、被告主張のような事態が発生することはありえない。

二  ココムの申合せは、単なる口頭の合意にすぎず、国際法上も国内法上も条約としての法的効力はなく、しかもこの種の国際間の約束を結ぶにあたつては、約束違反がありうることを当然に予想できたにもかかわらず、その場合の制裁措置についてはなんらの合意もなされていないのである。このことは、ココムの申合せ違反があつた場合にも、全参加国共通の意向としては、なんらの制裁措置をとらないという意思が表明されたとみることができるであろう。換言すれば、ココムの申合せは、その程度の緩やかな拘束力しか予定されておらず、その履行は各参加国の自主的規制に任されているものであるから、これに違反すれば「参加国として当然負担すべき協力義務に反し、国際信義を害うこと」になるかどうかはともかく、当然に他の参加国から制裁措置を受けるというようなことはあり得ないと考えるのが自然である。ココムの申合せが他の参加国から実力的制裁によつて報復されることにより申合せの効力が担保されるのが常であるなどと考えるのは、なんら根拠のない臆測であり思い過ごしも甚しいといわなければならない。もつとも、それではなんらの制裁措置をもともなわない国際的合意は存在理由がないではないかという疑問に対しては、つぎのことを指摘しておきたい。ココムの申合せ違反については、実はココム参加国相互間のものとしてではなく、アメリカだけの立場から強力な制裁措置が講じられていたのである。この法律は、ココム物資を共産圏諸国に輸出する国に対し、アメリカは軍事、経済、財政上の援助を一切行なわないとするもので、マーシャル・プランによる「援助」を必要とした当時のヨーロッパ諸国、ガリオア・エロア「援助」を受けていた当時の日本にとつては、重大な脅威であつたし、その後もアメリカの軍事、経済、財政上の「援助」を受けていた限りにおいて、バトル法による制裁措置に考慮を払わざるを得なかつたのである。しかし、現在においては、ドル危機その他にみられるとおり、国際経済におけるアメリカと他の自由主義諸国との力関係に重大な変化が生じており、ヨーロッパ自由主義諸国はいまではアメリカの「援助」にあまり関心と必要性を感じなくなつている。日米関係においても、現在、軍事上の「援助」問題を別にすれば、アメリカからの経済、財政上の「援助」は全く行なわれていないばかりでなく、前記ガリオア・エロア「援助」をも債務として確認の上、昭和三七年以来割賦返済をしている状態である。してみれば、日本側としてバトル法によるアメリカからの経済的制裁を懸念する必要は全くなくなつているというべきである。

しかして、このバトル法は、アメリカの一方的立場からするものとはいえ、ココムの申合せ違反に対する制裁措置を定めるものとしては、唯一の法令であり、そのバトル法が右のように制裁措置としての本来の機能の喪失してすでに久しいにもかかわらず、アメリカ自身においても、また、ココム参加国相互間においてもこれに代るなんらの制裁措置も講じられないままでいるのは、ココムそのものが国際情勢の変化によつて、すでに本来の機能を失ない、いかなる制裁措置をもともない得ぬほど無力化しているからである。それにもかかわらず、被告は、わが国以外の参加国もココムの申合せを厳守してきており、わが国がこれに違反すればそれらの全参加諸国すべてから報復される可能性があるかのごとく主張し、しかもそれら諸国の輸出関係諸法令をあげて、これらの諸法令がわが国に対する経済的報復手段として活用されうるというのである。しかし、ココムの申合せを厳守しているのは、いまでは日本とアメリカだけであり、他の参加国はこれを軽視ないし無視し、自国の貿易経済の発展のために対共産圏輸出の拡大を図りつつあるのが現状である。したがつて、アメリカ以外の参加諸国からは、実力的報復はもとよりのこと、道義的報復の可能性さえも考えられないのであり、まして、それら諸国の輸出関係諸法令が報復手段として活用されうるなどという見解は、現在の国際情勢の具体的実状を無視した詭弁にすぎない。ちなみに、被告があげる参加諸国の諸法令はすべて自国民の対共産圏輸出制限の根拠法たり得ても、その中にココムの申合せ違反国に対する制裁のために「活用」しうるような規定を見出すことは困難である。この点はアメリカの輸出統制法またしかりであつて、それはこれら諸法令の立法趣旨からして当然であろう。

三  さらに、本件貨物はいずれも民需用工業機械として一般市場で取引きされているものばかりでいささかの戦略性もなく、また、これが輸出された場合、中国側が本来の用途に代え、戦略物資として利用するおそれがあるなどという考え方にはなんらの合理性もない。現在の中国の工業水準は高度の段階に達しており、本件貨物を戦略用途に向ける必要はないのである。

しかも、本件貸物の輸出は展示のための輸出であり、展示のための輸出がココムの申合せによる規制対象とされていないことは通産省当局が国会において答弁しているとおりである。この点について、被告は、ココム参加各国とも展示のための輸出も申合せに基づく規制対象に含まれるものと解しているというのであるが、何故にかかる解釈が可能なのかその根拠は明確でなく、また、参加各国が同様に解しているとの主張が、各国ともかかる展示輸出を禁じているということまでも含むとすれば、それは明らかに事実に反する。日米を除く参加各国は、前記のとおり本来の輸出規制さえも無視する態度に出ているのであつて、展示輸出などは問題にしていないのである。

なお、ココム物資を輸出したといわれる各国の実例にあたつた限りにおいて、当該違反国が報復措置を受け、その国の国際収支、貿易、国民経済に影響が及んだという事例は全くない。

以上の諸点を総合すると、本件貨物の輸出承認がアメリカを除くココム参加国の報復を招くような事態の発生は全く考えられず、アメリカからの報復も、もし考えられるとすれば、バトル法に基づく軍事「援助」の停止問題だけであつて、その他の報復措置に出ると考えうる合理的理由は見出し難いのである。

四  しかるに、被告は、ココム参加国からの実力的報復手段として直ちに経済的圧迫が予想されるとし、それがわが国の貿易、経済に及ぼす影響を強調している。被告の主張をまつまでもなく、現在わが国は自由主義諸国側にたつことを政治の基本方針としており、経済構造もまたこの基盤の上に成り立つている。なかでも日米関係の比重は圧倒的である。したがつて、ココム参加諸国特にアリメカから被告主張のような経済的圧力が加えられるとすれば、わが国経済に与える影響が僅少でないことは何人も否定し得ないであろう。しかし、問題はそのような経済的圧力が加えられる現実的可能性があるかどうかにある。被告主張の六項目にわたる影響は、結局わが国経済の全分野にわたる影響ということにならざるを得ないのであるが、相手国が報復行為として、このような一国の全経済構造に影響を与える態度にふみきるのは、終局的には敵対国家関係に立つてもやむを得ないほどの決定的原因がある場合に限られるのであり、本件貨物の輸出承認によるココム違反程度の些細な理由によつて、経済断絶にも等しい結果を招来するような報復行為は到底予想し得ない。

五  ところで、本件貨物の輸出承認が仮にココムの申合せに違反するとしても、その違反は申合せの趣旨についての微妙な解釈によつて違反かどうかが左右される程度の些細な違反にすぎないものであることは、被告の主張からも十分に窺うことができる。しかも、他の参加国の遵守状況また前記のとおりであつてみれば、その違反が国際信義を害い、自由主義諸国との協調を破り、わが国の政治的経済的信用を失墜させ、これまで協調と相互信頼を前提として築きあげてきた自由主義諸国との貿易経済の密接な関係を維持し得なくなるほどの重大な結果を惹起することになるというような判断からしてすでに決定的な誤りであるといわなければならない。

しかして、被告のおそれる報復措置も、アメリカを除く他の参加諸国については道義的報復の可能性さえも考える余地のないこと前記のとおりであり、ひとりアメリカについてのみ道義的報復の可能性が考えられるが、そのアメリカといえども経済的圧迫その他の実力的報復については、複雑な諸要因によつて有機的に結合する日米関係を考慮するとき、その現実的可能性はあり得ないのであつて、結局被告の判断にはなんらの合理性もないのである。

第三  被告の主張

(答弁)

一  請求の原因一の事実は認める。

二  同二1の事実中、本件処分が輸出貿易管理令一条六項の規定に準拠してなされたものであること、本件貨物がココムの申合せのいわゆるココム統制物資に該当すること、ココムが一九五〇年に共産圏諸国への輸出統制基準を専門的に協議するために設置された非公式の国際機関であつて、現在の参加国数が一五か国であり、日本は一九五二年八月に参加したものであること、ココムの申合せは口頭によつて行なわれ、その内容は一切公表されないものであることは認めるが、その余の主張は争う。

原告は、いわゆるココム物資に関する輸出規制は、法律による行政の原理に反し、ひいては憲法三一条の適正手続保障の趣旨に違反するという。

ところで、いわゆる「法律による行政」の原理は、民主主義的政治原理に基づく行政における具体的、制度的表現として発展してきたものであり、すべての国家作用が法律に基づきその定めるところに従つて行なわれるべきことをその基本的原則とするものであるが、その実定制度上の形態は、必ずしも一律一様ではない。本件処分におけるように、法律(外為法)によつては単に規制の根拠を定めるにとどめ、その現実的規律(輸出貿易管理令等)を一定の限界内において行政にまかせることも、右の原理に則したものであることは、とくに指摘するまでもない。そして、このように法の授権がある場合には、行政府は、その授権の範囲内においてその裁量によりみずから適当と信ずるところに従い、法的規律を定め、これを執行するのである。これは、行政の対象が複雑化し、時によつて変遷する事情を考慮して、現実に即した行政目的を達成しようとする合目的的意図に基づくもので、その必要性および適法性は、広く現在の行政法において是認されているところである。本件における外為法と輸出貿易管理令の運用は、右のような関連において、まさに「法律による行政」の原理に立脚しているのである。

原告は、この点に関し、憲法二二条の規定を援用したうえとくにココム物資に関する輸出不承認基準が不明確で承認の許否に関する予測が不可能であるとし、これを「法律による行政」の原理に違反するものであると主張する。しかしながら、たとえ貿易の自由が、一般の営業におけると同様に、憲法二二条の規定によつて保障されているとしても、その保障は、右同条の明記するとおり、「公共の福祉に反しない限り」においてであるから、外為法において、わが国の輸出貿易について「外国貿易及び国民経済の健全な発展に必要な範囲」において政令を定め、輸出について通商産業大臣の承認を受ける義務を課することが設けられているのは、まさに右の憲法の趣旨が輸出貿易において具体化された結果にほかならない。

ところで、輸出貿易管理令が、その別表において、要承認品目を掲げるにとどまり、しかも要承認品目のうち、どれがいわゆるココム物資であるかを明らかにせず、またその性能等に関する承認基準の内容のすべてをそのまま公表していないのは、原告の主張するとおりであるが、このような措置は、なんら行政の恣意によるものではなく、つぎのような合理的な理由に基づくものである。そもそも、承認手続を設けて行政目的を達成しようとする場合においては、承認対象とすべき品目の範囲について、徒らに複雑多岐にわたる規定を設け、かえつて無用の混乱を生ぜしめるよりは、立法技術上適当と認められる平明な表現を用いて規定することは通常行なわれることであり、輸出貿易管理令別表の定めが特異なものではない。このことはいわゆるココム物資のみならず、他の要承認品目とされている物資についても共通していいうることである。なお、いわゆるココム物資については、原告も自認するとおり、申合せの内容は不公表とし、所要の編集を加えてのみ公表しうることが合意され、他の参加国においても遵守されているという事情もある。しかも、本件政令の制定にあたつては、ココムにおける申合せの趣旨を尊重しつつ、わが国貿易経済の健全な発展を図るため必要な最少限度にとどまるよう努力を払つており、また、多くの場合、従来の承認実績等に照らし規制の実態は相当程度理解され、さらにその運用の面においても、通産行政担当者による事前相談の活用等によつて、輸出承認申請者の利益を不当に害しないような考慮が払われているのである。

なお、原告は、憲法三一条の規定違反をも主張するようであるが、右の規定はそもそも刑罰を科する手続が妥当な手続であるべきことを定めたものであり、財産権の侵害に関するものでないのみならず、輸出貿易管理令が前記のように適法に制定されているものである以上、その理由のないことは明らかであるといえよう。

原告はさらに、ココム参加に伴い条約を締結するか国内立法化の必要があると主張する。しかしながら、外為法および輸出貿易管理令は、右申合せがわが国の貿易経済との関連において有する効果の面からこれをとらえて判断の基礎とするにすぎないのであるから、右法令に基づいて行使される裁量権の範囲に属する。したがつて、条約の締結または特別な立法の問題は、本件とは全く別の問題である(なお、後記関連部分参照)。

原告は、外為法四八条二項の規定が委任立法の基準を定める点において不十分であり、これをうけた輸出貿易管理令一条六項の規定が抽象的不確定概念を並べているにすぎないからいずれも違憲であると主張するもののようである。しかしながら、右同法の規定は、まさに、原告のいうごとく「外国貿易の規制が国民経済の変動に即応するような柔軟性をもつ必要」から設けられたものであり外為法一条所定の目的と総合して考えれば、その授権の趣旨を明らかにするために必要にして十分なものというべく、他の立法例においても同様な形式がとられていることが少なくないことは周知のことであるから、所詮、原告独自の見解たるにすぎないといえるであろう(たとえば、最判昭和三三、九、一〇民集一二巻一三号一九六九頁参照)。つぎに、輸出貿易管理令一条六項の規定についていえば、同項は、同項一項において要承認品目を具体的に明示したことを前提として、不承認等の基準を設定したものであり、その基準をどの程度具体化するかは、外為法の定める委任の範囲内において、その行政目的に照らし(前記参照)、内閣がその裁量権を行使して決定しうる事項に属する。しかも、右政令の定める要件が外為法による授権の範囲を逸脱していないことは、とくにいうまでもない。従つて、右政令の規定が憲法に違反することの主張も理由がないのである。

ついで、原告は、「通産大臣の裁量の範囲に自ら一定の限界があること」を前提として、本件輸出不承認処分が、輸出貿易管理令一条六項による「行政庁の裁量権限外の輸出制限行為といわなければならない」と主張する。

被告も、輸出貿易管理令に基づく裁量権の行使が、その規定する枠内すなわち「外国貿易及び国民経済の健全な発展を図るため必要があると認めるとき」という限界内においてなされるべきことについてはとくに異論をさしはさむものではない。しかし、たとえココムによる対共産圏輸出規制の本質等として原告の指摘するような事情が存在するとしても、わが国がこれに参加するにいたつたのは、それがわが国の貿易経済の健全な発展に必要と認めたことに基因していることは明らかであり、さらに、その後わが国が自由主義諸国と緊密な協調を保ち、ココムの申合せを尊重していることが、貿易経済発展の基礎にあることは否定し得ないのである。それゆえ、通商産業大臣が前記輸出貿易管理令に基づく裁量権すなわち外国貿易および国民経済の健全な発展に関する裁量権を行使するにあたつても、右のような経済的効果の面から見たいわゆるココムの申合せを無視し得ないのは当然のことであり、これはまさに通商産業大臣のなすべき貿易経済的見地からする判断以外のなにものでもない。原告は、右政令によつては、「純経済的」な事情のみを考慮すべきであるという。ところで、わが国の貿易経済は国際的な貿易経済をめぐる諸環境と無関係であり得ないことは、およそ常識に属することであり、もし、原告の主張が、前記のようなわが国の貿易経済存立の基盤となつている与件をも無視すべきものとする趣旨であるならば、被告としては到底同調し得ないし、かくしてはその貿易経済における責任を全うすることができないのである。

要するに、原告の主張は、通商産業大臣が経済的見地から行なつている裁量権の行使について、あたかも貿易経済と離れた政治的裁量権を行使するかのごとく強調することにつきるのであるが、輸出貿易管理令に基づく通商産業大臣の輸出承認の許否に関する原告の主張は、その視点に誤りがあるものというべきである。原告は、通商産業大臣が輸出貿易管理令に「便乗」して「ココム禁輪の実を挙げようとする」という。しかし、もし仮にココムの申合せを尊重することが外為法および輸出貿易管理令の意図する貿易経済の発展という経済効果と密接な関係がないにかかわらず、あえて、右法令の運用によつて申合せを墨守するならば、そのような批判の生ずる余地があるにしても、現時点においては、右のような事情は、およそ指摘し得ないのである。

さらに付言すれば、原告は、「輸出がその時々の経済情勢に照し、わが国民経済に対して及ぼす影響の如何などとは全く無関係に、ただそれがココム物資に当該するというだけの理由で輸出禁止を行つている」といい、さらに「ココムにしたがつて共産圏向輸出禁止を行なうかどうかは、当然国会を通じて国民の意思を問うべきである」という。しかしながら、通商産業大臣が、現にココム物資に該当する場合にその輸出を承認しないのは、貿易経済に対して及ぼす影響を考えずこれと「全く無関係」に行なつているのではなく、かえつて、ココムの申合せを尊重することとわが国の貿易経済との密接な関連を考慮し、申合せに反しないことが貿易経済の発展に寄与すると判断している結果であることは、詳しくくり返すまでもない。

また、対共産圏輸出規制の当否について国会の意思決定を求めるべきであるとの主張は、政治論としてはとにかく、輸出不承認の適否を輸出貿易管理令所定の経済的要件を中心に検討すべき本件と関連を有するものではない。まさに倒立した論の観さえ呈しているのである。

原告は、さらに、あたかも通商産業大臣が「経済的目的以外の目的」にもとづいて本件輸出不承認処分をしたかのように解して少なからず説明を加えているが、通商産業大臣の本件処分は、すでにくり返し説明したとおり、その輸出承認が有する経済的効果すなわち「外国貿易及び国民経済の健全な発展」との関連においてなされたものであるから、右の誤解または曲解に基づく主張に対しては、あえて反論の必要はないと考える。

請求の原因一2の主張は争う。

原告は、通商産業大臣の本件処分は、外為法および輸出貿易管理令によつて許容される裁量権の限界をこえたものであるから違法であると主張し、「単なる抽象的な国際政治的配慮に基づく主張や、現実的蓋然性に基づかない臆測」によつては、その裁量行為を正当化することはできないという。しかしながら、被告の本件処分は、なんら原告の指摘するような実質を有するものではない。

本件処分は、外為法四八条に基づいて制定された輸出貿易管理令一条六項によつてなされたものであるが、同令の規定は、「外国貿易及び国民経済の健全な発展を図るため必要があると認めるときは」、通商産業大臣が輸出不承認等の処分をすることができると定めている。この要件は、外為法四八条二項の規定に則して設けられたものであり、さらにその趣旨が右同法一条において明らかにされている「外国貿易の正常な発展を図り……もつて国民経済の復興と発展とに寄与する」ことにあることは指摘するまでもない。したがつて、この目的を達成するために右輸出貿易管理令の規定に基づいてなされる輸出貿易に関する規制は、外為法四七条に規定するいわゆる輸出自由の原則に対する所要の制限として、本来、外為法が予定しているところのものなのである。

ところで「外国貿易及び国民経済の健全な発展」を考えるにあたつては、まず、わが国の外国貿易および国民経済がおかれている客観的状況がその与件をなすことについて、おそらく異論はないであろう。そして、このような見地からみれば、わが国の貿易経済は、他の諸国のそれと同様またはそれ以上に世界経済との関連においてのみ維持、発展しうるのである。しかも、わが国は自由主義諸国の一員としてこれら諸国と密接な貿易経済上の関係を有し、これを基盤としてめざましい繁栄と発展が達成されているのである。右の事実は、わが国の貿易経済を取りまく現実的、客観的事情として何人も否定し得ないところであり、通商産業大臣が本件処分に際して貿易経済の発展を考えるにあたつても、当然考慮に入れるべき与件であつた。

ところで、本件処分の対象となつた一九品目が、いわゆるココムにおける申合せに該当する貨物で、しかも、いわゆる行政例外または特認の例外的措置をとりえない事情にあつたことは明らかである。そこで、このような貨物の中国への輸出を承認すべきか否かを考えるにあたつては、ココムの申合せに反することとなる輸出を承認した場合に、前記のような客観的事情のもとにあるわが国の貿易経済がどのような影響を受けるかということを合理的に判断することになるであろう。そもそもココムは昭和二五年共産圏に対する特定の貨物の輸出の規制について自由主義諸国が協議調整することを目的として発足した話し合いの場であり、わが国は、その後昭和二七年に貿易経済の発展を図る必要上これに参加したのである。すなわち、わが国は、ココム参加前には、占領下にあつたという事情や対米経済協調の必要から対共産圏輸出について強い規制を実施していたが、ココムへの参加は、このようなわが国にとつて、実質上、対共産圏輸出規制の緩和その他の貿易経済上の利益をもたらしたのである。その後、わが国の経済が戦後の復興を成し遂げ、さらに、現在のような繁栄をみるにいたるにつれて、高度の科学技術の導入、輸出入、資本取引等の各種の面においてココムへの参加を継続する貿易経済上の必要性は依然として強く存在しているのであり、今や参加が無意味になつたとか、参加の趣旨目的が政治的なそれに転化したというような事情の変化は全くないのである。そしてこのココムの申合せは、その法的拘束力の有無はとにかく、事実上いずれの参加国においても厳格に遵守され、これに反することは自由主義諸国との密接な経済関係を基盤として成立、発展しているわが国の貿易経済に重大な悪影響を及ぼすことが以下にも述べるとおり合理的に予測されうるのである(なお、本件貨物の輸出を承認した場合においては、将来ココムの申合せに反することとなる同種の承認をくり返えさざるを得ないこととなり、全面的にココムの申合せに違反する結果を招来するであろう。)。

すなわち、ココム参加国は申合せに反した国に対してそれぞれの立場において種々の経済的対応措置を講じうることは、後記のとおりである。ちなみに、わが国ともつとも緊密な経済関係を有するアメリカについてわが国への技術の導入、機械設備等の輸入をみても、同国は対共産圏輸出規制についてきわめて厳格な態度を堅持しており、もしわが国がココムの申合せに反して輸出を承認するようなことがあれば、わが国に対する信頼関係の存続を前提として実現していたわが国への高度の科学技術の導入、機械設備等の輸入について相当の規制が加えられるべきことが法制上看取されるばかりでなく、規制手続運用の面においてもわが国が種々の不利益を被るべきことが予想されるのである。そして、アメリカからの高度の科学技術の導入、機械設備等の輸入が現にわが国の貿易経済に果たしている実績を考えるならば、これらに対して規制が加えられることは、直ちに貿易経済の発展に大きな障害を招来することを意味するのである。アメリカについて、わが国がココムの申合せに反した場合に被ると懸念される経済上の不利益は、技術導入、機械設備等の輸入に関するものにとどまるわけではない。わが国の輸出の三〇%をこえる対米輸出についても、アメリカは関税法、通商拡大法等において輸入制限措置に関する法制を有しているばかりでなく、毎年多数の輸入制限法案が議会に提案されており、アメリカ政府は国内の産業界等からのこれら法制の適用や新規立法に関する根強い要請に対して、わが国との間の協調関係を理由に辛うじてこれを抑えているのが現状であり、仮にわが国が本件貨物の輸出を承認してアメリカが多大の関心を払つていると認められる対共産圏輸出規制に関する申合せに反することになれば、アメリカ政府は、産業界等に対する説得力を失なうばかりでなく、自らも対日輸入制限に踏み切るであろうことは当然に予想されるところである。そしてわが国の経済成長のためには、輸出の伸長が不可欠であるというわが国貿易経済構造の現実を考えるとき、このようなアメリカの対日輸入制限がわが国貿易経済に及ぼす影響は論をまたないのである。このほか、アメリカの輸入銀行の融資措置等についても、その危惧を感ぜざるをえないことは、容易に認めうるであろう。これらの不利益は、アメリカがわが国に対して従来からの協調関係の基盤に立つて貿易経済上の考慮を払つている実情を考えれば、その前提が崩壊した後において予想される事態として高度の蓋然性をもつものといわざるを得ないのである。

右のような事情は、通商産業大臣が、本件貨物の輸出と貿易経済の健全な発展との関係を検討するに際して考慮した主たる点であつた。要するに、通商産業大臣が輸出貿易管理令一条六項に基づいて本件輸出承認の許否を判断するにあたつての法律要件は、「外国貿易及び国民経済の健全な発展を図るため必要があると認める」か否かであつて、その要件を充足するか否かの判断は、前記のような客観的諸事情を総合考察したうえではじめて可能となるのである。そして前記の各事情、すなわち、わが国が自由主義諸国と密接な経済関係を有していることは客観的な事実であり、したがつて、ココムの申合せに反することが、わが国の貿易経済の発展を害するにいたるであろうことは、合理的に予想しうるところに属し、「単なる抽象的な国際政治的配慮に基づく主張や、現実的蓋然性に基づかない臆測」などと批判さるべきものではない。むしろ、前記のような事情を無視して貿易経済の発展を論ずることこそ現実から遊離した抽象論に堕するものであることを指摘せざるを得ない。そして前記のような意味における客観的事実を考慮に入れて輸出貿易管理令一条六項の規定する貿易経済の発展を考える解釈態度は、なにもわが国がココムに参加した後に突然生じたものではない。外為法施行当初から同様な措置がとられているのである。

なお、現在における日中貿易の状況を一べつすることは、前記のような不利益の危惧ないし蓋然性を無視してまで本件貨物の輸出を承認することが不当であることを容易に察知せしめるであろう。すなわち、日中貿易の取引規模はたとえば対米貿易のそれに比して比ぶべくもない。この点からみても、本件貨物の輸出が、日中友好等の政治目的に貢献しうることはとにかく、前記のような貿易経済が被る不利益の蓋然性をつぐなつて余りある成果を貿易経済の発展のうえにもたらすなどとは、現時点においてはおよそ考えられないのである(ただし、わが国は、決して対中国貿易を軽視しているのではなく、一方において客観情勢の許す限りにおいて、できる限り貿易量の拡大に努めており、現に、わが国は、中国の対外貿易において第一位の実績を示しているのである。)。

要するに輸出貿易管理令一条六項の「外国貿易及び国民経済の健全な発展」は前記のような客観的与件と関連せしめてはじめて現実的な判断を可能にするものであり、このような解釈は、同令の基礎となる外為法一条所定の「外国貿易の正常な発展を図り……もつて国民経済の復興と発展とに寄与する」という目的が当然に予定しているところにほかならず、また、同法四八条二項の規定に違反することにもならないのである。従つて、本件輸出承認に関する通商産業大臣の裁量権の行使については、なんらその限界を踰越した違法は存在しないのである。

三  請求の原因三の事実中、通商産業大臣が国の公権力の行使にあたる公務員であること、国貿促が中国、ソビエトをはじめとするすべての社会主義国との貿易の促進を図るため、貿易上の諸障害を除去し、友好増進の基礎の上に、平等互恵の原則をもつて、国際貿易の促進を図ることを目的とし、その会員は、右目的に賛成する団体、法人および個人とするものであること、昭和三〇年以来八回にわたり原告主張の商品見本市が開催されたこと(ただし、国貿促の主催実施にかかるものは、昭和四二年天津で開催された日本科学機器展覧会の一つのみである。)、本件展覧会に関し、昭和四二年二月二七日と昭和四三年三月一九日に国貿促と中国国際貿易促進委員会との間に、原告主張のごとき「議定書」、「合意書」の作成されたこと、昭和四四年三月二二日に開催される本件展覧会が、同名称の団体である原告によつて実施されることとなり、国貿促ほか原告主張の八団体がその主催団体とされたことは認めるが、その余の事実を否認する。

(主張)

一  通商産業大臣が本件処分をなしたのは、外為法四八条およびこれに基づく輸出貿易管理令一条六項の規定に基づくものである。外為法四八条は、国際収支の均衡の維持ならびに外国貿易および国民経済の健全な発展を図るために必要がある場合には、特定の種類もしくは特定の地域を仕向地とする貨物については、通商産業大臣の承認を受けなければ、輸出をすることができないものとすることがある、と規定し、これに基づき輸出貿易管理令は、右の承認を受けるべき貨物および仕向地を規定している。同令一条六項の規定により「外国貿易及び国民経済の健全な発展を図るため」貨物の輸出を承認しない場合としては、その輸出が国内の需給関係を乱す場合、輸出が過当競争を惹起する場合、公序良俗を乱す場合(たとえば麻薬等)、国連決議(南ローデシアに対する経済措置等)や国際間の取極(綿製品協定等)に反する場合等があり、これらの輸出が承認せらるべきでないことは外為法の当然予定するところである。

二  共産圏に対する特定の貨物の輸出規制も外為法および輸出貿易管理令に基づいて行われているものであり、現在の国際情勢にかんがみ、わが国の外国貿易および国民経済の健全な発展を図るためには、わが国は、貿易はもとより経済活動全般にわたつて密接な関係を有する自由主義諸国との協調を図つていく必要があると考えて、自由主義諸国間の申合せの趣旨を尊重しつつ行なつているものである。すなわち、右の自由主義諸国間の申合せとは、ココムの申合せであり、ココムは、一九五〇年に対生産圏輸出の規制について自由主義諸国が協議調整することを目的として発足した協議機関であり、わが国は一九五二年以来これに参加しているが、他の参加国は、ベルギー、カナダ、デンマーク、フランス、ドイツ連邦共和国、ギリシャ、イタリア、ルクセンブルグ、オランダ、ノールウエー、ポルトガル、トルコ、イギリスおよびアメリカである。ココムはパリにおいて開催され、参加国の討議により申合せ事項が口頭で合意されるが、現在の申合せ事項の大綱は、一九六六年に行なわれた討議によつて合意されたものである。右のココムの申合せは、国際法上または国内法上、いわゆる条約としての法的効力を有するものではないが(したがつて、前記南ローデシアに対する経済措置に関する国連決議が国連憲章二五条に基づき法的効力を有し、また、綿製品協定がいわゆる行政取極としての条約であるのと対比される。)、わが国を含む自由主義諸国間における協議調整の結果成立した多国間の合意であるから、わが国は、右申合せの趣旨を尊重しなければならない。なお、ココムにおいては、参加国間の協議調整によつて、共産圏に対して輸出規制を行なうべき品目につき合意がなされるが、その協議ないし合意の内容は、不公表とされているので明らかにすることができないが、各参加国政府は、合意された品目について所要の編集を行なつた上で公表しており、わが国では、輸出貿易管理令別表第一ならびに同令の解釈運用に関する細目的事項を定めている輸出貿易管理令の運用について(昭和三六年輸出注意事項三六第三〇号)の別表第一および戦略物資輸出承認等事務処理要領(昭和三三年輸出注意事項三三第四四号)の附表によつて、これを知ることができる。しかし、右申合せにおいて輸出規制が合意された品目については、一部特定のものにつき、その最終用途が民需的なものに限られること等の要件が充足された場合を除き、すべて共産圏に対する輸出を禁止すべきものとされているのである。

三  本件貨物は別紙目録記載のとおりそれぞれ輸出貿易管理令別表第一に掲げられた特定の貨物に該当し、同令一条一項一号の規定により要承認品目とされているものである。このような規定がおかれているのは、わが国が前記ココムの申合せの趣旨に従つて国内法令上当該品目を輸出規制対象としてとりあげていることによるのである。なお、ココムにおいては、輸出禁止の例外的承認の要件についても合意され、申合せが成立しているのであるが、本件貨物は右例外的承認の要件を充足していない。また、ココムの申合せにおいては、展示のための輸出に関する特段の定めはなく、わが国を含み各参加国とも、展示のための輸出も申合せに基づく規制の対象に含まれるものとされている。

四  ココムの申合せは、前記のとおり、参加国間の口頭の合意に基づくものであり、いわゆる条約としての法的効力を有するものではないが、国家間における合意は、条約であると否とを問わず、これを守るべきことは当然であり(右申合せについても、わが国以外の参加国もすでに厳格にこれを守つてきている。)、もしこれに反したときは、他の参加国から実力的、道義的種々の制裁をもつて報いられることにより、その効力が担保せられるのが常であり、その実力的報復として直ちに予想せられるものの一つにいわゆる経済的圧力をもつて臨む方法があることは明白である。そして、わが国のように資源に乏しく国民の経済活動が貿易をはじめとする国際経済交流に大きく依存している国家においては、経済的圧迫を国際的に受けることの致命的であることは多くいうまでもあるまい。したがつて、もし仮にわが国が右申合せの趣旨に反して本件貨物の輸出を承認した場合には、自由主義諸国との協調は破られ、わが国の政治的経済的信用は失墜し、これまで協調と相互信頼を前提として築き上げてきた自由主義諸国との貿易、経済の密接な関係を維持し得なくなり、つぎのような困難な事態の発生を予測することができる。

1 自由主義諸国からの重要技術の導入が著しく困難となることが予想される。技術革新下の今日、国民経済の発展は不断の技術開発なくしてはあり得ない。このためには、国産技術の開発とならんで外国の先進技術のたゆまぬ導入、消化が必要となる。しかるに、これまでわが国が導入した外国技術の九割近くはこれら自由主義諸国に依存しており、とくに今後、原子力、宇宙開発等重要な先端技術の自由主義諸国からの導入に期待するところは極めて大である。

2 わが国の輸出が停滞し、ひいては減少をみることとなろう。すなわち、わが国の経済成長のためには輸出の伸長が不可欠であり、かつわが国輸出の約9.5割は共産圏以外の諸国向けであるが、本件貨物が輸出された場合は、近隣自由主義諸国が対日輸入制限を行ない、さらに、先進自由主義諸国も対日輸入制限を実施ないし強化することとなり、わが国輸出は重大な悪影響を被るおそれがある。とくに繊維、雑貨、軽機械等のごとく輸出依存度が高く、中小企業の多い業種にあつては、輸出先き諸国の輸入制限の強化により致命的な打撃を受けることとなる。

3 輸入面においても、わが国重要産業の維持発展に必要な機械設備をはじめ、その供給の大部分を海外に依存している原材料、資源等の輸入が自由主義諸国の対日輸出規制の導入等によつて不円滑かつ困難となるおそれがある。

4 わが国がその大部分を自由主義諸国に依存している外資導入についても、これら諸国の政府ならびに民間金融機関から対日融資の停止、削減等の事態が起るおそれがある。

5 現在わが国の経済外交上の重要問題である残存輸入制限品目の自由化、対日輸入制限の撤廃等の交渉においても、わが国の立場を不利にし、交渉の成果をあげることが困難となる。さらにまた、これら自由主義諸国内におけるわが国企業の経済活動や航空、漁業等の事業活動にも影響するおそれなしとしない。

6 以上の結果、わが国経済運営の基礎をなす国際収支についても、その均衡の維持、改善を図ることが困難となり、また、その均衡回復のために必要な国際協力もこれを期待することが困難となるおそれがある。

ちなみに、主要な自由主義諸国の貿易規制に関する法規について一べつすると、まず、アメリカの輸出統制法(Ex-port Control Act of 1949)およびその施行規則は、輸出先国を自由主義国、共産圏諸国等七つの国別グループに分類して異なつた輸出許可基準を適用し、また、アメリカのテクニカル・データが直接間接に共産圏諸国に流出することを防止しており、その他、カナダの輸出入許可法(Export and Import Permits Act, 1954)、ドイツ連邦共和国の対外経済法(Aussen-wirtschaftsgestz, 1961)、イギリスの輸出入管理法(Import, Export and Customs Powers(Defence)Act, 1930)、フランスの一九四四年一一月三〇日付政令をはじめとする各種の政令、ベルギーの輸出入法(Loi relative à l'importation, à l'exportation et au transit des Marchandises 1962)オランダの輸出入法(houdendeeen regeling op het gebied vand deinvoer en de univoer van goederne, 1962)等においても、アメリカの輸出統制法と類似の措置が講じられており、これらの法規が、国家間の重要な合意に違反した国に対して経済的圧力を課するための手段としても、活用されうるものであることは明らかである。

五  通商産業大臣は、本件貨物に関する輸出承認の許否を決するにあたり、以上のような事情を考慮し、わが国の外国貿易および国民経済の発展に及ぼす影響について慎重な検討を行なつたのであるが、その結果、自由主義国として存立しているわが国の政治経済の基本体制を前提として、ココムの申合せの趣旨、効果を考え、また、わが国の経済の将来を展望すると、本件貨物の輸出を承認することは、ココム参加国として当然負担すべき協力義務に反し、国際信義を害うこととなるばかりでなく、ひいては、わが国の外国貿易および国民経済の発展に好ましくない影響を与える蓋然性が大きいと認め、輸出貿易管理令一条六項の規定に基づき本件処分をなしたものであつて、本件処分は適法であり、原告主張のごとき違法はない。

もとより、本件処分については、その基本的態度、輸出を承認した場合に生じうべき事態に対する予測その他の点について、別の見地からする批判や主張の余地がありうるであろう。しかしながら、そのような批判等は、政策論としてはとにかく、本件処分の違法性を理由づけうるものではないのである。なんとなれば、本件処分は、輸出貿易管理令一条六項の規定に基づいて通商産業大臣が行使しうる裁量権の範囲内においてなされたものであり、なんらこれを踰越するものではないからである。けだし、通商産業行政の最高責任者たる通商産業大臣は、外為法、輸出貿易管理令を解釈、運用するに際し、その行政目的に照らして、果たして当該不承認処分が「外国貿易及び国民経済の健全な発展を図るため必要」であるか否かを判断する責任と権限を有するのであるが、本件処分をなすにあたり通商産業大臣が考慮に入れた事情は、まず、わが国が基本的に自由主義国として国際的地位を占めるにいたつているという高度の政治性を有する事実であり(通商産業大臣がこの基本方針に従うことは当然であり、裁判所もかかる国の基本方針の当否を問うべき権限を有しない。)、さらには、その基盤の上に成立した自由主義諸国との申合せであり、いずれもわが国の外国貿易および国民経済発展の基礎をなす最高方針またはその施策であつた。してみれば、通商産業大臣がこのように無視し得ない事情の存在を前提として、わが国の外国貿易および国民経済の将来を展望し、その結果、ココムの申合せの趣旨に牴触する本件貨物の輸出承認申請を認めないことが、わが国の「外国貿易及び国民経済の健全な発展のため必要」であると判断するにいたつたことは、客観的、合理的な根拠に裏付けられているといわざるを得ず、したがつて、通商産業大臣に許容されている裁量権の範囲を逸脱したものとは到底いえないのである。そして、事の実質をみるとき、実験的にココムの申合せを破つてみて、他の参加国の出方をみるなどという具体的措置をとり得ないものであることはいうまでもない。

なお、わが国は、貿易立国の立場からいずれの国とも貿易を促進することとしており、日中貿易については、中国本土が地理的にも歴史的にもわが国と密接な関係にあり、また輸出入市場としての将来性も大きいと考えられるので、政府としてもできるだけ前向きで貿易の拡大に努力している。この観点から、従来から日本工業展覧会の開催等については、補助金を交付する等の支援をしてきたところであり、また本件申請に関する処理にあたつても、速やかな処分のため、従来以上に努力したところである。

第四  証拠関係<略>

理由

一  当事者間に争いのない事実

1原告が、本件展覧会と同名称の団体であつて、その実施にあたるものなること、国貿促が中国、ソビエトをはじめとするすべての社会主義国との貿易の促進を図るため、貿易上の諸障害を除去し、友好増進の基礎の上に、平等互恵の原則をもつて、国際貿易の促進を図ることを目的とし、右目的に賛成する団体、法人および個人を会員とする団体で、昭和四二年天津で開催された日本科学機器展覧会を主催実施したが、本件展覧会に関しては、昭和四二年二月二七日と昭和四三年三月一九日に国貿促と中国国際貿易促進委員会との間に「日中両国人民の友好貿易の促進に関する議定書」、「一九六九年に日本が北京と上海で開催する工業展覧会にかんする合意書」が作成され、国貿促ほか八団体が主催団体となり、その実施機関として原告が設立されたこと。

2原告が、通商産業大臣に対し、昭和四三年一一月一三日、原告の代表者である理事長川瀬一貫名義をもつて、本件展覧会に出品するため、本件貨物を含む貨物につき、外為法四八条一項、輸出貿易管理令一条一項の規定に基づいて、輸出承認申請をなしたこと、通商産業大臣が、右申請に対し、その代理通商産業省重工業局重工業品輸出課長土谷直敏名義をもつて、昭和四四年一月一三日付で、本件貨物につき、輸出貿易管理令一条六項の規定により輸出不承認の本件処分をなしたこと。

3本件貨物がココムの申合せにより輸出を制限された物資(以下「ココム統制物資」という。)に該当すること。

4ココムが一九五〇年に共産圏諸国への輸出統制基準を専門的に協議するために設置された非公式の国際機関であつて、現在の参加国数が一五か国であり、わが国が一九五二年八月に参加したことおよびココムの申合せは口頭によつて行なわれ、その内容は一切公表されないものであること。

二  ココムの申合せとその趣旨、目的

1<証拠>を総合すれば、つぎの事実を認めることができ、他にこれに反する証拠はない。

アメリカは、第二次大戦後の東西間の冷戦といわれる国際情勢のもとにおいて、一九四七年三月、いわゆるトルーマン・ドクトリンにより共産圏諸国の「封じ込め」政策を明確に打ち出すにいたつた。当時においては、いまだ中国は存在しなかつたが、すでに中国大陸において蒋介石政権と対立していた中国共産党をも意識し、これをも右「封じ込め」政策の対象と考えられていた。そして、アメリカは、ヨーロッパにおいて、一九四七年六月、いわゆるマーシャル・プランにより西欧諸国に対する大規模な経済援助を行なつたが、これも西欧諸国の資本主義経済を復興することが共産圏諸国を経済的に封じ込めるため必要と考えられていたことによるものである。さらに、アメリカは、軍事面から共産圏諸国「封じ込め」政策を推進するものとして、一九四九年に北大西洋条約機構(NATO)を設置し、右政策を実施した。北大西洋条約機構に加盟したのは、マーシャル・プランによりアメリカから援助を受けた国のすべてではないが、マーシャル・プランは経済面から、北大西洋条約機構は軍事面から、それぞれアメリカの共産圏諸国「封じ込め」政策を推進するものであつた。

かかる政策の一環として、アメリカは、一九四八年に安全保障輸出計画を作成し、アメリカの安全保障の見地から共産圏諸国への輸出規制に着手し、戦略物資リストの作成、一九四八年の経済協力法の改正等によるアメリカの戦略物資の共産圏諸国への輸出の禁止等が行なわれた。そして、一九四九年のバンデンバーグ決議により、アメリカからの援助はアメリカの安全に寄与するものでなければならない旨が宣言されるにいたり、被援助国から共産圏諸国へ戦略物資が輸出されるのを防止する措置がとられるにいたつた。前記の経済協力法による経済援助、一九四九年の相互防衛援助法による軍事援助、一九五〇年の国際開発法による低開発国への技術援助等において右措置がとられ、一九五一年に相ついで立法された相互防衛援助統制法(バトル法)、相互安全保障法(MSA)により、さらにアメリカの前記の政策は強力に推し進められた。

しかしながら、アメリカだけが共産諸国に対する戦略物資の禁輸を行なつてもその効果が十分に発揮できないので、アメリカは、一九四八年ころ、アメリカから援助を受けている国々と協議した結果、これらの国々も漸次戦略物資の共産圏諸国への輸出禁止をはじめていつたのであるが、さらにこの措置を国際的に組織化するため、一九四九年一一月から、各国と外交折衝を行ない、一九五〇年一月に、パリに参加国から派遣された代表によつて構成される非公式の政策委員会(Consultative Group)が設けられることとなつて、その活動を開始し、右政策委員会の下に専門的な基準につき協議する目的でココムが設けられるにいたつた。

ココムの参加国は、発足当時は、アメリカ、ベルギー、カナダ、デンマーク、フランス、西ドイツ、イタリー、ルクセンブルグ、オランダ、ノルウェー、ポルトガルおよびイギリスの一二か国であつたが、その後日本、ギリシャおよびトルコが参加して一五か国となり、日本を除く一四か国はいずれも北大西洋条約機構加盟国である。このほか、オーストリア、ガーナ、マラヤ、メキシコ、モロッコ、ペルー、フィリピン、スエーデン、スイス、チュニジア、南ベトナムは、ココムには参加していないが、これに協力態勢をとつており、ココム協力国と呼ばれている。

ココムが共産圏諸国への輸出を禁止する品目は、共産圏諸国の潜在的戦力に大きく貢献するもの、すなわち戦略物資であつて、その細目は、パリのココムにおける討議の結果決定されるが、これらはすべて非公開とされている。アメリカは、情を知つて戦略物資を共産圏諸国に輸出した国に対しては、前記の相互防衛援助統制法の規定により、軍事、経済上の援助を打ち切る方針をとつている。

ココムによる戦略物資の統制方式は、共産圏諸国へは原則として禁輸であるが、その他の国を仕向地とする戦略物資については、仕向地統制(IC, DV方式)をとつている。すなわち、ICとは輸入証明書(Import Certifificate)、DVは引渡証明書(Delivery Verification)のことであつて、この制度は、IC、DVの二つの証明書を活用することによつて、輸出貨物が所期の目的地に確実に到着し、共産圏諸国に流入しないようにするためのものである。

2右認定の事実および前記当事者に争いのない事実によれば、ココムは、アメリカの共産圏諸国「封じ込め」政策という国際政治上の方針に由来して設置されたもので、共産圏諸国の潜在的戦力強化をスロー・ダウンすることを直接の目的とする非公式の国際機関であり、その申合せは、国際法上も国内法上も条約としての効力を有しないものというべく、したがつて、ココムの申合せ自体はココム統制物資の輸出制限をする法的根拠となしえず、国民に対しココム統制物資の輸出制限をなしうるためには、ココムの申合せの趣旨、目的に沿つた国内法がすでに存在するか、新たな立法措置を要するといわなければならない(アメリカにおける輸出統制法、カナダにおける輸出入許可法、ドイツにおける対外経済法等参照。)。

もつとも、<証拠>によれば、わが国がココムに参加した当時はいわゆる朝鮮戦争中であつたが、いずれ同戦争が終結した場合は特需景気もなくなり、景気の後退が予測されたので、アメリカとの貿易、経済関係の増進が必要であると考えられ、そのためには、まず、わが国がアメリカを中心とする自由主義諸国に属し、共産圏諸国「封じ込め」政策に同調するという国際政治的立場を確立しておかなければならないとの判断に基づいてココムに参加したものであると認めることができ、<反証排斥>この事実によれば、わが国のココム参加は経済的考慮によるものであるということができるが、しかし、そうであつても、ココムおよびその申合せの趣旨、目的が本来前示のような国際政治的なものであることは否定されないというべきである。

三  本件処分の違法性の有無

1ところで、原告は、本件処分は輸出貿易管理令一条六項の規定によつて輸出不承認処分の要件とされている「国際収支の均衡の維持と外国貿易及び国民経済の健全な発展を図るための必要性」の解釈を誤り、裁量権の限界を越えた違法な処分である、と主張するので、まず、この点について判断する。

(一)  外為法は、その四七条において、輸出は同法の目的に合致する限り、最少限度の制限の下に、許容されるものであると規定し、輸出自由の原則を宣言しているが、同条は、単なる輸出自由という政策目標を掲げたものではなく、憲法二二条一項の規定により基本的人権として国民に保障されている営業の自由の内容としての輸出の自由という国民の権利とその公共の福祉による制限を具体的に規定したものというべきである。そして、同法一条は、「外国貿易の正常な発展」と「国際収支の均衡・通貨の安定・外貨資金の有効利用の確保」とによる「国民経済の復興・発展」が同法の目的であると規定し、上記同法四七条にいう同法の目的を示し、同法四八条一項は、輸出については、政令で定めるところにより、通商産業大臣の承認を受ける義務を課せられることがあると規定し、上記同法四七条にいう制限を示し、同法四八条二項は、右の政令による輸出制限が国際収支の均衡の維持ならびに外国貿易および国民経済の健全な発展に必要な範囲を越えてはならないと規定し、この限度における輸出制限が上記同法四七条にいう最少限度の制限であることを示している。すなわち、輸出の自由は、国民の基本的人権であつて、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とするから、その制限は、最少限度のものでなければならず、このことは、単に立法においてだけではなく、上記法令の解釈、適用においても遵守されなければならないものというべきである。

しかるところ、輸出貿易管理令は、上記の外為法四八条一項にいう政令として、同令一条で輸出につき通商産業大臣の承認を受けなければならない場合を規定し、その六項で、「通商産業大臣は国際収支の均衡を維持し、並びに外国貿易及び国民経済の健全な発展を図るため必要があると認めるときは、第一項の承認をせず、又は同項の承認に条件を附することができる」と規定しているのであるから、輸出貿易管理令一条六項の規定の解釈は、同令の授権法である外為法の精神に則つてなされなければならない。また、一般に、経済法令はその規定の対象が経済という極めて流動的なものであり、かつ、その変化に対応した臨機の措置を要求されるので、その執行に当る行政庁はすぐれた専門的知識、経験を必要とする等の考慮から、その規定を抽象的にとどめ、行政庁に広い裁量の余地を与えることを立法の通例とし、輸出貿易管理令一条六項もその例外ではないが、同条項が経済法であり、行政庁に裁量の余地を与えているとはいつても、法定治国における行政の基本原理である「法律による行政の原理」を否し得ないことはいうまでもないから、同条項についてもこれを厳格に解釈し、拡大解釈するようなことがあつてはならないというべきである。

以上、これら法令の規定について検討した結果を総合して考えると、輸出貿易管理令一条六項の趣旨とするところは、輸出の自由は基本的人権であるから、国民の行なう輸出が純粋かつ直接に国際収支の均衡の維持ならびに外国貿易および国民経済の健全な発展を図るため必要と認められる場合、たとえば需給の調整、取引秩序の維持などのため必要と認められる場合に限り、通商産業大臣においてこれを制限することができる、というにあると解するを相当とし、経済外的理由による輸出制限は、それが間接的に経済的効果をともなうものであつても、同条項の趣旨とするところではないというべきである。

(二)  さて、法規の解釈、適用はその法規の趣旨に即してなされるべきものであることはいうまでもないから、輸出貿易管理令一条六項に基づく処分をなすに際し行使しうる裁量権の範囲も上記同条項の趣旨、すなわち、輸出制限を必要とする純粋かつ直接の経済的理由の有無に限られ、これを逸脱することは許されないと解すべきところ、前記当事者間に争いのない事実および<証拠>を総合すれば、本件処分は、輸出貿易管理令一条六項の規定によるものではあるが、その実質的理由は、前示のように共産圏諸国「封じ込め」政策の一環としてそれら諸国の潜在的戦力をスロー・ダウンさせることを直接の趣旨、目的とするココムの申合せを遵守するためという国際政治的理由によるものであることが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。したがつて、本件処分は、輸出貿易管理令一条六項の規定により行使しうる裁量権の範囲を逸脱し、違法であるといわなければならない。

被告は、現在の国際情勢にかんがみ、わが国の外国貿易および国民経済の健全な発展を図るためには、わが国は貿易はもとより経済活動の全般にわたつて密接な関係を有する自由主義諸国との協調を図つていく必要があるから、ココムに参加し、その申合せを遵守することこそわが国の外国貿易および国民経済の健全な発展を図るゆえんであり、また、ココムの申合せが条約としての効力を有しないものであつても、それが国家間の合意である限り、これを遵守すべきが当然であり、これに違反して本件貨物の輸出を承認した場合には、アメリカをはじめとする自由主義諸国から当然に経済的報復を受け、わが国の外国貿易および国民経済の健全な発展に著しい悪影響が生ずることとなるので、ココムの申合せによる輸出制限は輸出貿易管理令一条六項の趣旨に合致する、この見解に対しては異なる立場からする反論があるかも知れないが、同条項にいう「外国貿易及び国民経済の発展を図るための必要性」の認定は通商産業大臣の裁量に委ねられているのであるから、その当否は裁判所の判断の対象とならない、したがつて同条項に基づく本件処分にはなんら原告主張のごとき裁量権の逸脱などの違法はなく、適法である旨主張する。しかし、ココムに加入し、その申合せを遵守することがわが国の外国貿易および国民経済の健全な発展を図るゆえんであるかどうかはわが国の国際政治における政策の選択の問題であつて、裁判所がその当否を判断すべき事項でないことはいうまでもなく、したがつて被告がココムの申合せを遵守すべきと考え、その趣旨、目的に即した国内法を制定し、それに基づいてココム統制物資の輸出を制限するというのであれば、その限りにおいて問題はないわけであるが、本件争点は、その点にあるのではなく、要するに、かかる立法措置をとることなく、本件貨物がココム統制物資に該当するという理由で輸出貿易管理令一条六項の規定に基づいてその輸出制限をすることができるか否かにある。そうであれば、同条項にいう「外国貿易及び国民経済の発展を図るための必要性」の認定が通商産業大臣の裁量に委ねられてはいるが、その行使しうる裁量権の範囲が純粋かつ直接の経済的理由の有無に限らるべきこと前記説示のとおりであるから、被告の右主張は、右裁量権の範囲を逸脱して拡大解釈するものであるとのそしりを免れないものというべく、採用できないといわざるを得ない。

2以上のとおりであるから、本件処分は、原告主張のその余の違法事由につき判断するまでもなく、違法であるといわなければならない。

四  通商産業大臣の故意または過失の有無

1公権力の行使に当る公務員が、その職務を行なうについて、法令の解釈を誤つた結果違法な処分をなした場合において、常にそれが法令の解釈に関してであることを理由として故意または過失がないとはいえないことはもちろんであるが、しかし、その法令の解釈が分れていていまだ確立された判例、学説などがない場合において、当該公務員が一つの解釈的立場に立つてなした処分が、結果として法令の解釈に誤りがあつて違法であるとしても、その解釈的立場が、通常、公務員に対して要求されている注意力を欠くと認められるものでない限り、当該公務員に故意または過失があると認めるのは相当ではないというべきである(最高裁昭和四四年二月一八日判決、判例時報五五二号四七頁参照)。

2本件についてこれをみるに、通商産業大臣は、輸出貿易管理令一条六項にいう「外国貿易及び国民経済の健全な発展を図るための必要性」の有無の認定は同大臣の裁量に委ねられているから、ココムの申合せを遵守することがわが国の外国貿易および国民経済の健全な発展を図るゆえんであり、これに違反してココム統制物資の輸出を承認することにより、ココム参加各国からわが国が経済的報復を受け、その結果わが国の外国貿易および国民経済の健全な発展に支障を生ずるおそれがあるような事情が認められる場合も、右裁量権の行使によりその輸出を制限することができるとの解釈に基づき本件処分をなしたが、右解釈が誤りであること、したがつて、本件処分が違法であることは、前記判示のとおりであるが、<証拠>を総合すると、輸出貿易管理令一条一項の規定により、通商産業大臣の承認を受けなければ輸出をすることができないとされている貨物等を記載した同令別表第一の中には、いわゆるココムのリストが編集のうえ、含まれていること、上記のような解釈的立場が政府部内において有力であること通商産業大臣もその解釈に基づいて従来から同令一条六項の規定する処置をなしてきたものであることを認めることができ、他にこれに反する証拠はない。そして、これらの事実に本件のごとき経済法令の解釈はとかく政策的に流れ易いものであることを併せ考えると、通商産業大臣が本件処分をなすにあたり採つた上記解釈的立場は、いまだ、通常、公務員に対して要求されている注意力を欠くものとは認められず、したがつて、本件処分は違法ではあるが、同大臣に故意または過失はなかつたものといわなければならない。

五  結論

以上の次第で被告に国家賠償を求める原告の本訴請求は、爾余の点について判断するまでもなく理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。(杉本良吉 渡辺昭 岩井俊)

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